松露を尋ねてⅡ

 
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海岸に出て静かに打ち寄せる波を見ていると、携帯が鳴った。娘からだった。あと少しでホテルに到着すると言う。ホームセンターで熊手を買っていると言う。あり難い助っ人達を待った。

 娘が到着する前にこれが松露だよ、と見せることが出来たらいいな。子供の頃の記憶を辿りながら、松林の中をうろうろ探した。茸らしきものもあったが、松露ではない。

 丸い石ころのような茸を幾つか見つけたが、それには短い茎が付いていた。松露に茎は無かったはずだ。

 竹の棒で松葉の積もった場所が少ない、比較的綺麗な場所を探しながら歩いた。思えば私の小さい頃、松露だけを採りに行ったことはなかった。

 それはたいてい母が松の落ち葉(ゴー)を集めに行くのに付いて行っただけだった。犬のマリも一緒だった。母が熊手を持つと、マリは一番先を走って川原に沿った松林に行った。

 ゴーは、薪を焚く時の付け火にする。当時新聞紙などは弁当箱を包むのに貴重だったから、木の葉を使うのが常だった。そのため皆が熊手でそれを集める。

 自然に松林は綺麗になった。熊手でゴーを集めていると、それに松露も引っかかったり、ころりと根元にあったりした。

 ゴーを集めたビク(藁で編んだ籠)の中に、自然松露はコロコロと集まった。松葉を集めた副産物が松露だった。

 夕食に七輪で焼いた松露の香ばしい香りがした。その頃将来飛行機に乗り、幻と化した松露を探す旅に出るなど、誰が想像できただろう。

 
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虹の松原の林の中に遠い私がいた。おっかちゃん、あっちに行ってみようよ、大きな松があるよ。あそこに松露がきっとあるよ。

 私が母に話しかけている。母と私はその方角に歩いている。ああそっくりだね、50年以上も前の故郷の松林の中で、母と私は熊手を持って松葉を集めている。

 母は着物を着てエプロンをかけている。粗末な着物に使い古したエプロン、母の真っ白なエプロンは、近所のお葬式の時だけだった。

 さわさわと風が吹き、着物を着た母がいなくなった。林には私一人が残され、相変わらず松露の影もなかった。一瞬の間母が一緒にいてくれた。少し涙が出そうになった。

 風の音と波の音がさわさわ、ザザ~と交互に聞こえる。蜘蛛の糸が顔に張り付いた。手で払い時計を見ると午後2時になっていた。

 林の中を2時間も散策していた。もと来た道に戻りホテルの前に出ると、娘達がフロントにいた。あった、と訊かれたが、無い...力なく答えた。
 
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by inakagurashi2003 | 2007-10-17 07:09 | 雑談

初孫誕生で喜びのオーマ(ドイツ語でおばあちゃん)です。


by inakagurashi2003