もっと優しく出来ないですか

 兄はJ大学病院の付属の病院に入院している。昨日から、強い薬が入り、少しずつ悪い方向にに向かいだした。眠っていたら食べられないと、何も持たずに病室を訪ねると、奥さんが来て、カステラを食べさせていた。

 あ~意識があったのだとほっとした。メロンを食べたいと言うので、家に帰り冷蔵庫の中の冷たいメロンを一口大に切り届けた。

 冷たすぎたのか2切れ食べ、後でまた食べると言うので、常温になるように病室の脇に置いた。兄はその後苦しそうな顔、困ったような顔をするので、看護師さんにモルヒネを点滴してもらった。

 その内楽になったのか、苦しそうな顔をせず、車を運転するようなしぐさをしている。上の方を指差し、声が出ないので唇の動きで判断すると、富士山と言った。

 今、車でドライブしているのだ。富士山が見える所まで行ったのだ。静岡辺りを走っている。もっと西へ行けば、故郷尾張地方へ行ける。

 楽しそうにニコニコしている。富士山が見えたんだ、良かったねと、奥さんが子供に言うように話している。ウン、ウンとうなずく兄。

 兄の様々なしぐさが、見ていて飽きないのだ。3時間があっという間に過ぎ、兄はメロンを思い出し、2切れ食べた美味しいと嬉しそうだ。

 その後暫くして、苦しいと言うので、また看護師さんを呼び、モルヒネを点滴してもらった。点滴を終えた看護師は、Sさん苦しい時は何も食べないでね、厳しい口調で言った。

 患者のことを思って行ってくれたのだろうが、気に障った。何もそんな言い方をしなくても良いのではないか。あと少ししか生きられない人に、もっと優しく出来ないものだろうか。

 食べたいものを食べたい時に、少しでも食べられたら、こんなに嬉しいことはない。命の営みの源なのだから....  看護師は余分な仕事が増えるのが嫌らしい。

 美味しいメロンを食べて、それが原因で喉に詰まって死んだとしても、その方が幸せなくらいなのだ。苦しい苦しい闘病の終焉が、ひと時早く来ても、そんなことはもういいのだ。

 強い薬を点滴し24時間を経て、兄は別人のような顔をしていた。朦朧とした時間を只ベットの上で過ごすだけなら、それは人間ではなくなってしまう。

 少しでも気分がいい時、意識のある内に、好きなものを食べてもらいたいと家族は思う。そんな哀しいまでの思いを受け止めることも出来ない。白衣の天使などと言うが、私には悪魔が白衣を着ているように見えた。
 
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by inakagurashi2003 | 2007-12-01 19:03 | 雑談

初孫誕生で喜びのオーマ(ドイツ語でおばあちゃん)です。


by inakagurashi2003